galaxx’s diary

とあるオタクの一人語り。

芹沢あさひ、あるいは我々の置いてきた感情とその考察 (芹沢あさひ概論)

 

※この記事には、あさひのWING編コミュと「空と青とアイツ」コミュのネタバレを多分に含みます。特に後者は限定煽りにあたるので、嫌だという方はその部分を読み飛ばしていただけると幸いです。

※解釈違いな点がございましたら、ご気軽にコメントください。励みになります。

 

 はじめに

みなさんは、「芹沢あさひ」というアイドルをご存じでしょうか(ご存じない方がこの記事をご覧になっていたらすごいことですが)。「アイドルマスター シャイニーカラーズ」において、「ストレイライト」というユニットに所属する女の子。Twitterなどで流れてくるイラストでは、しばしば少し常識から外れた言動をしている白髪で水色の瞳の女の子。そんな印象をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。何を隠そう、筆者はこのアイドルに惹かれてこのゲームを始めました。そして、彼女の人間性に惹かれ、見事にどっぷりこのゲームにも漬かってしまいました。

今回はそんな彼女の魅力の一端と、彼女が持つ「我々の置いてきた感情」についてお話ししたいと考えています。そして、この記事によってみなさんが彼女の魅力を再確認できれば幸いです。

芹沢あさひというアイドル:WING編

ここからは、具体的なシナリオをなぞりつつ、彼女がどのような人間なのかに迫っていきます。

 

①出会い

プロデュースするアイドルを自分でスカウトしてくるように言われたプロデューサーは、街中を探し回りますが、なかなか気に入った子を見つけられず、休憩をとろうとします。そこで、大きな街中モニターと、そこに映っているCMのアイドルに"完璧に"合わせて踊っているあさひを発見します。聞くところによると、練習を重ねたとかではなく、"ちょっとやってみただけ"で完璧にトレースしてみせたというのです。その圧倒的な才能に惹かれたプロデューサーは名刺を提示しスカウトしようとします。そして、アイドルがどんなことをやるのか説明すると、彼女は「面白そう」といいスカウトを承諾してしまいます。自分の生活に関わる事なので、普通はこんなに安請け合いすることではないのに。

才能があり、破天荒」こんなイメージをありありと感じる出会いのコミュです。 

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 ↑なろう主人公みを感じる…

②シーズン1コミュ

初回のレッスンに顔を出しに来たプロデューサーはあさひに声をかけるが、あさひはダンスに集中していて聞こえません。その集中力を前にプロデューサーは、集中すると周りが見えなくなるところがあるので、気を付けてみてあげなければと感じます。その後あさひに顔出しに来たことを伝えると、あさひは初回のレッスンで見てもらうダンスを披露します。プロデューサーは初回のレッスンにしてはかなりよくできていると褒めるのですが、あさひは気になるところがある様子。そしてふたたび振り付けの研究に移ります。

自分の興味にとことん集中し、時には周りが見えなくなる」彼女の一面が表れたコミュになっています。

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 ↑集中した凛々しい姿もかわいいです。

③シーズン2コミュ

ある日、プロデューサーが事務所に来ると、あさひが居間におらず、プロデューサーは「ということは…」という発言とともにレッスンルームに向かいます。すると、あさひはダンスの自主練を行っている様子。「ということは」という発言から、あさひがレッスンルームに籠るのは日常的なことであることがうかがえます。そして、あさひはどうやら、レッスン初日の時から同じ振り付けを練習し続けているようです。プロデューサーはほぼ完璧だと評価しているのですが、あさひはそれでは満足いかず、プロデューサーに意見を求めます。

自分の熱中しているものをとことん追求する」彼女の姿がうかがえます。

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↑元気に挨拶できてえらい!

④シーズン3コミュ

あさひはプロデューサーも立ち会っている中、レッスンを終えます。シーズン2コミュ以降、ステップを追求して根を詰めすぎることもなくなり、プロデューサーは安堵を覚えます。

その後、時間も遅くなったので事務所から撤収しようとするプロデューサーですが、倉庫の明かりがついていることに気が付きます。不思議に思って確認してみると、なんとレッスンが終わったはずのあさひが発声の本を読んでいたのです。聞けば、レッスン終わりにライブに行くなどもしている様子。プロデューサーはあさひの貪欲な姿勢を評価したうえで、このような無理をしてあさひが体を壊したら元も子もないと諭します。しかしあさひは、「アイドルを見て感じた輝きとドキドキ」が頭を離れてくれず、じっとしていられないと反論します。それに対しプロデューサーは、(選択肢にもよりますが)あさひの熱意を尊重しつつ、あさひにとって無理にならないような線引きを設定しようとします。

熱意ゆえの危うさを持ったあさひを、プロデューサーがサポートする」コミュになっています。

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↑あさひは、論理的に説明すれば分かってくれる子なのです。

⑤シーズン4コミュ

たくさんのレッスンを経て、あさひは初めてのステージに立ちます。あさひは「約束」を守ってくれたこと(おそらく、シーズン3で真ん中の選択肢を選んだ後の「無理をし過ぎないラインを引いたうえで、あさひの希望を最大限叶えるスケジュールをあさひと相談する」ことを指す)に感謝し、高揚感と落ち着きの混ざった不思議な気持ちでステージに臨みます。あさひのパフォーマンスは非常に優れており、それだけで会場の雰囲気を一変させるほどの威力を持っていました。

パフォーマンスを終えたあさひはしばらくぼーっとしていますが、我に帰ると自分のパフォーマンスに満足している様子。一方で、選択肢によっては「わたしにとって、アイドルって…」と、これまで熱中して、ある種漠然と進んできたアイドルとしての道に、自分なりの意義を見つけようとしている様子も感じられます。

初めてのステージを経て、アイドルとして大きな成長を遂げる」コミュだと言えます。

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↑暫し呆然としているあさひ。目からハイライトが消えていて少し怖い気もします。

⑥WING優勝コミュ

大きな目標だったWINGのオーディションに無事合格したあさひ。しかし、事務所には残っておらず、初めて出会ったあの街中モニターの所にいました。あさひは、CM内のアイドルの振り付けを無我夢中で真似ていたこの場所に来れば、なぜアイドルを楽しいと感じているのかがわかるかもしれないと思ったようです。そして、この場所に来ただけでは分からなかったが、今プロデューサーと出会ってその答えが分かったと言います。今までは独りで楽しさを追求し続けてきたが、今は隣にプロデューサーがいる。そのことが楽しいのだと彼女は言います。しかし、どうもそれ以外の理由があり、それをまだ彼女の中で見つけられていない様子。それを見てプロデューサーは、あさひのアイドル生活はまだ始まったばかりなのだから、"一緒に"見つけていこうと結び、WING編は終わります。

大きな峠を越え、彼女の中のアイドル像が曖昧ながらも定まり始める」コミュであると言えます。

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↑こんなことを言われて、正気でいられるでしょうか。いやいられない(反語)

 

芹沢あさひというアイドル:「空と青とアイツ」編

次に、「空と青とアイツ」のコミュを振り返っていきたいと思います。このコミュがあまりにも衝撃的だったので、執筆者の中であさひが不動の担当になった、そんな思い入れのあるコミュでもあります。

①シーズン1コミュ

ある日プロデューサーが倉庫を覗くと、物の配置があちこち変わっていることに気が付きます。その後あさひに事情を聞くと、どうも倉庫を自分の基地として使っていて、私物をたくさん置いている様子。プロデューサーは、みんなの共用の場所なので他の人に迷惑をかけないようにとやんわりと伝えつつ、それでもあさひの興味があってやっていることを否定することはできない様子です。

あさひの周囲を省みないようにも見える行為を、プロデューサーが部分的には肯定する」のがこのコミュのポイントです。

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↑ウキウキのあさひ、かわいい。

②シーズン2コミュ

出張でホテルに滞在しているプロデューサーとあさひですが、「窓の外で何か飛んでた」と言い、それを確かめに外出します(夜なのに!)。流石に危険なので、プロデューサーもその外出についていきます。飛んでいた何かは見つかりませんでしたが、街中でお土産店の通りを見つけ、他の様々な「楽しい」を見つけたあさひは、それを片っ端から見て回ります。それを見てプロデューサーは、自分の修学旅行のころの体験を思い出します。

あさひの楽しそうな様子を見て、プロデューサーが自らの過去を回顧する」コミュになっています。

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↑よく売ってるよねニセ札。かわいい。

③シーズン3コミュ

 ある日あさひは、事務所の屋上でカメラを使って「空」を撮影していました。翌日あさひの「秘密基地」を訪れると、その時に撮った空の写真が吊るされています。なんと、あさひは秘密基地内に空を作っていたのです。共用スペースがさらに散らかっていたり、いろいろと言いたいことがあるプロデューサーのようですが、「この空を狭めるわけにはいかない」と言い、口を噤みます。この一言が、この考察で非常に重要です。

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↑このイラストに心を奪われたプロデューサーは多いはず。

④シーズン4コミュ

プロデューサーがコロッケを食べているのを見つけたあさひ。しかし、既に冷めていて、食べ方に難儀している様子。これを見たあさひは給食の時間で食べずにとっておいたコッペパンでコロッケを挟み、コロッケパンにして食べることを提案する。言葉にしてしまえばこれだけのコミュです。ここで重要なのは、「あさひの柔軟な発想が、プロデューサーを驚かせる」というところにあります。

⑤TRUEENDコミュ

ここが本題です。

 どんどん広がっていく秘密基地に対し、プロデューサーは流石にどうにかしないとと考えます。そこで、やってきたあさひに、今の秘密基地のモチーフになっている無人島について、ある想像上の話をします。実はその無人島はあるおじいさんのもので、そのおじいさんがある日船で帰ってきて、自分のものだった無人島に人がいて驚く話。あさひは「そんな設定はない」と否定します。それを受けてプロデューサーは次のような話をします。

「あさひの基地はあさひだけの…すごくかっこいい場所だもんなぁ

 空があってさ、ハンモックがあって、望遠鏡があって

 謎の本があって、缶詰めもあって―――バットもある

 だから―――俺が壊したりしたくないし

 誰かに壊されたりもしてほしくないんだ」

と言い、あくまであさひに、秘密基地の結末を委ねることにします。

「論理的に言えばわかってくれる子だ」とWING編で述べたと思いますが、この時のプロデューサーは、あさひが自分でした選択なら、必ずしも秘密基地を解体する必要はないと考えていたと思います。なぜなら、「どうにかしなければ」と思うと同時に「この空を狭めるわけにはいかない」と思っていたからです。このコミュにもある通り、あさひの世界が変わっていくなら、それは外部からの力ではなく、あくまであさひ自身の意思を尊重した形でなければならない。そう考えていたと思います。

話をコミュの内容に戻しましょう。プロデューサーがそう言った翌日、倉庫を覗くと秘密基地はなくなっています。さらに、「家賃」というメモ書きとともに、シーズン4コミュで残しておいた給食の一部であろう、小魚とアーモンドが置いてあります。あとから部屋に来たあさひに事情を聞くと「わたしの島が見つかるまで、解散することにした」と言います。そうして、「誰のものでもない場所」を探しにあさひが出かけていくところで、このコミュは終わります。

あさひはプロデューサーの言葉であの倉庫が自分一人のものではないと理解し、だから島を解散したのでしょう。WING編、そしてこれまでと、自分の楽しさを追求してきた彼女は、ここで初めて自分の世界と、外の世界との衝突に遭い、プロデューサーの言葉を呑んで外の世界と衝突しない、自分だけの世界がある場所を探しに行くのです。「家賃」という名目で給食を置いておいたのも、この他者性を認識したからこそだと言えます。

芹沢あさひは「かつての我々」である

ここまで芹沢あさひというアイドルの姿を二つのコミュを通じて見てきましたが、ここで執筆者なりの意見を述べさせていただきます。

芹沢あさひは、「かつての我々」そのものである。

唐突に言われてもなんのこっちゃ分からないと思うので、説明していきたいと思います。

WING編でのあさひは、「自分の興味があることに、他のものが見えなくなるくらいにある種狂気的なまでに熱中する」姿が描かれていました。それは、子どもの頃の我々の姿と重なる部分がないでしょうか。子どもの頃は、親に勉強しろと言われても聞かず、自分のやりたいこと(ゲームであったり、外遊びであったり、読書であったり)に自分の全精力を注ぎ、欲しいものがあればねだってなんとしてでも得ようとするなど、なりふり構わず自分の興味に全力で向かって行った。そんな経験がみなさんにもあると思います。

これを念頭に置いて、「空と青とアイツ」のコミュを見てみると、あさひの自分の興味に向かっていく姿勢は変わらないのですが、そんな彼女が「自分の興味以外の世界」、「外の世界」の存在に気づき、自らの行動を変えざるを得なくなる様子が描かれています。

WING編のあさひが「幼かった私たち」であれば、「空と青とアイツ」のコミュのあさひは何を示唆しているのでしょうか。私なりの意見を述べさせて貰えば、「私たちの末路」です。

もちろんこのような人がすべてとは言いませんが、ほとんどの人々は幼いころに抱いた夢を実現は出来ないと思います。それは、単に飽きてしまったからかもしれないし、才能が追い付かなかったからかもしれないし、どうしようもない外的要因があったからかもしれない。いずれにせよ、幼かったころから成長した私たちは、「自分の世界」に対する「外の世界」、あるいは「自分のやりたいこと・興味」に対する「やらねばならないこと」と接触することによって、自分の世界の変質、あるいはやりたかったことの消失を余儀なくされる。「空と青とアイツ」のコミュが示すのは、このようなところだと思います。

しかし、彼女はTRUEコミュで「誰のものでもない場所」を探しに出かけます。つまり彼女の中で「秘密基地」は、いったんは解散しましたが、「いまだに彼女の中に残り続けている興味・夢」なのです。この点が、幼い頃の夢をあきらめ、現実に埋没していく「我々」、いや、この際言ってしまえば「私(執筆者)」と彼女の違いなのです。

彼女の「夢」はまだ枯れておらず、それゆえ彼女はこの後も彼女自身の「夢」を追求し続け、そのたびごとに「外の世界」との衝突に遭うのでしょう。だからこそ私は、彼女に惹かれてしまうのです。私が「外の世界」との接触で諦めてしまった「あの頃に抱いた夢」。自分の中でもまだ消化不良で、答えを出せていないそれに、彼女はどんな答えを出すのか。それが気になるから、私は「夢」を追いかけ続ける彼女の姿に惹かれ続けるのでしょう。

 この記事を見て、彼女の「夢」の行き先を見てみたい同志が、一人でも増えれば幸いです。